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東京地方裁判所 昭和29年(ワ)26号 判決 1957年2月27日

原告 周梅璋 外二名

被告 株式会社 東洋

主文

被告の訴外増田敏夫に対する東京地方裁判所昭和二八年(ヲ)第四四九一号建物収去命令に基く別紙目録記載の建物に対する強制執行は、許さない。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一申立

一原告 主文同趣旨の判決を求める。

二被告 「原告等の請求を棄却する。訴訟費用は原告等の負担とする。」との判決を求める。

第二主張

一原告(請求原因)

(一)  合資会社日本橋東洋は、その所有にかかる別紙目録記載の土地(以下「本件土地」という。)に関する訴外株式会社第一製作所との間の賃貸契約を賃借人たる右訴外会社の賃料不払により解除したとし、訴外増田敏夫及び株式会社第一製作所に対し、本件土地上の別紙目録記載(甲)の建物(以下「本件建物(甲)」という。)及びその附属建物である右目録記載(乙)の建物(以下「本件建物(乙)という。)を収去して本件土地を明渡すべき旨建物収去、土地明渡請求訴訟を東京地方裁判所へ提起(同庁昭和二五年(ワ)第二八三七号事件)して勝訴の判決を得、該判決は控訴審をまたずして確定した。その後前記合資会社日本橋東洋を吸収合併した被告会社は、その権利義務一切の承継人として前示確定判決の執行力ある判決正本に基き、本件建物(甲)、(乙)を収去すべき旨の東京地方裁判所昭和二八年(ヲ)第四四九一号建物収去命令を得て、同庁所属執行吏に右命令の執行を委任した。

(二)  然し、原告等は、以下に記す理由により本件建物(甲)及び(乙)に対する、前示強制執行の不許を求める。即ち、

(1)  本件建物(甲)、(乙)は、東京地方裁判所昭和二四年(ヌ)第五六号強制管理事件(債権者永代商工信用組合、債務者増田敏夫)の決定により強制管理の対象とされ、管理人同庁所属執行吏山内伴治の管理に属するところ、原告徐は、昭和二五年三月一六日右山内伴治から本件建物(乙)全部を賃借し、現在右の建物を占有して「日本橋更科」なる商号を用いそば類飲食店を経営している。さらに原告徐は本件建物(乙)への通路として本件建物(甲)のうちその一階中央部を東西に貫く幅二間、奥行五間の部分を占有使用し、かつ本件建物(甲)の二階屋上正面に一枚、同建物の正面左側の個所に二枚いずれも同原告所有の看板を設置しているが、右看板設置の個所は原告徐が管理人山内伴治から看板設置のため賃借してこれを占有している。そして、本件建物(甲)は原告徐所有の前記看板三枚の所有権を侵害することなくこれを収去することは、物理的に不可能である。

(2)  原告周は、本件建物(甲)の一階北側の部分五坪三合八勺を、また原告風間は右建物の一階西南隅の部分七合(いずれも別紙図面<省略>参照)を昭和二五年三月一六日それぞれ管理人山内伴治から賃借して占有している。尤も被告の前主合資会社日本橋東洋は、東京地方裁判所昭和二五年(ヨ)第一七七三号建物占有移転禁止仮処分命令を得、右仮処分命令の執行として前示賃借権に基く本件建物(甲)の前示部分に対する原告周、同風間の占有は解かれ一旦執行吏の占有に移した後、現状不変更を条件として右原告両各に対し前示部分の使用を許したが、原告周については昭和二八年八月二八日、同風間については同年一二月一七日いずれも点検により右占有部分の使用を禁せられて再び執行吏の現実保管に移された。しかし、前示仮処分命令の執行を受け、原告風間、同周がそれぞれ本件建物(甲)のうちの前示賃借部分に対する事実上の支配を失つたことは右原告両名の前示賃借部分に対する占有の効果を失わしめるものでなく、同原告等は以然右の部分について占有を有するものというべきである。

(3)  本件建物(甲)、(乙)及び訴外永代商工信用組合所有の本件建物(丙)は、登記簿上ではそれぞれ別個独立の物件として取扱われているが、実際には棟を一にする一個の建物であるから、結局原告等は、右の建物全体について占有権を有するものというべきである。

二被告(答弁)

(一)  (1)  請求原因(一)の事実は認める。

(2)  請求原因(二)(1) 、(2) の事実中、原告徐が本件建物(甲)、(乙)のうちその主張の部分をその主張のとおり占有していること、原告周、同風間が本件建物(甲)のうち各その主張の部分をその主張のとおり占有していたこと並びに原告周、同風間主張のごとき仮処分命令の執行及び点検による各使用部分の使用禁止があつたことについては、これを認める。

(3)  請求原因(二)(3) の事実は否認する。本件建物(甲)、(乙)は訴外増田敏夫が、また本件建物(丙)は訴外増田八重子がそれぞれ別個の建物として建築したものであり、一個の物件ではない。

(二)  (1)  原告等が本件建物(甲)、(乙)にその主張するごとき占有権を有し、また原告徐が本件建物(甲)にその主張のごとき看板を設置しているとしても、右は何等被告の本件建物(甲)、(乙)のその余の部分に対する執行を妨げるものではない。

(2)  かりに、本件建物(甲)、(乙)、(丙)が原告等主張のごとく一個の物件であるとしても、登記簿上及び実際上本件建物(甲)、(乙)、(丙)の三個の部分に区分特定され、各部分が独立して権利の対象たり得るから、その本件建物(甲)及び(乙)の部分のみを強制執行の目的とすることは可能である。

第三証拠

一原告

(一)  甲第一号証ないし第一四号証(第九、一〇号証は昭和二九年三月一七日の、第一一、一二号証は昭和二四年一二月五日の、第一三号証は昭和二八年一二月二〇日の、第一四号証は同月一七日の各本件現場写真)、第一五号証の一ないし三、第一六号証ないし第二一号証を提出。原告風間辰治本人訊問の結果並びに現場検証の結果を援用。

(二)  乙第一、二号証、第七号証の一ないし三の成立を認める。第三号証ないし第六号証がいずれも本件現場写真であることは認める。

二被告

(一)  乙第一号証ないし第六号証(第三号証ないし第六号証は本件現場写真)、第七号証の一ないし三を提出。証人増田敏夫、松井善之助、北村親吉の各証言を援用。

(二)  甲第五号証ないし第八号証の成立は不知。第九号証ないし第一四号証がいずれも本件現場の写真であることを認める。その他の甲号各証の成立を認める。

理由

(一)  被告が東京地方裁判所昭和二五年(ワ)第二八三七号建物収去、土地明渡請求事件の確定判決に基き、本件建物(甲)、(乙)を収去すべき旨の東京地方裁判所昭和二八年(ヲ)第四四九一号建物収去命令を得、その執行を同庁所属執行吏に委任したことは、当事者間に争いがない。

(二)  原告等は、それぞれ本件建物(甲)、(乙)を占有するものとし、その占有権に基いて前示強制執行の不許を求める。よつて按ずるのに、

(1)  原告徐が東京地方裁判所昭和二四年(ヌ)第五六号強制管理事件(債権者永代商工信用組合、債務者増田敏夫)として管理手続中の本件建物(乙)を昭和二五年三月一六日管理人東京地方裁判所所属執行吏山内伴治から賃借して現在これを使用しており、また前同様管理手続中の本件建物(甲)のうちその階下中央部を東西に貫く巾二間奥行五間の部分並びにその二階屋上正面及び同建物の正面左側の原告所有看板設置の個所を占有していることは、当事者間に争いがない。

(2)  次に、原告周が本件建物(甲)の一階北側の部分五坪三合八勺を、また原告風間が右建物の一階西南偶の部分七合(別紙図面参照)を昭和二五年三月一六日それぞれ前示管理人山内伴治から賃借したこと並びに東京地方裁判所昭和二五年(ヨ)第一七七三号建物占有移転禁止仮処分命令の執行として原告周、同風間は、前示賃借部分について占有移転禁止、現状不変更を条件にその使用を許されたが、原告周については昭和二八年八月二八日、同風間については同年一二月一七日いずれも点検によりその占有部分の使用を禁ぜられ、それらの部分が執行吏の現実保管に移されたことは、当事者間に争いがない。そして被告は、前示のごとく点検により執行吏の現実保管に移された結果原告周、同風間は本件建物(甲)の前示賃借部分につき最早占有を失つたものであると主張する。しかし執行吏が仮処分命令の執行として従前債務者その他の者が占有していた物件を自己の保管に移した場合、執行吏による右の物件に対する占有は、国家の執行機関として、執行保全の目的のためになすものであつて公法的性質を有するものと解すべく、したがつて従前の占有者の右の物件に対する私法上の占有の効果は、そのことのために消滅することなく存続するものと解する。してみれば、原告周、同風間の本件建物(甲)に対する従前占有部分が前記のとおり執行吏の保管に移されたことは、その後における右原告両名の前示部分に対する私法上の占有の効果を主張するについて何らの妨げをなすものでないと考える。

(三)  被告は、原告等が本件建物(甲)、(乙)について前認定のごとき占有権を有することは、右の建物のうち原告等の占有に属する以外の部分に対する強制執行を妨げるものでないから、前示建物収去命令に基く本件建物(甲)、(乙)に対する執行を全体として許されざるものとする原告等の主張は理由がない旨主張するが、本件建物(甲)については、原告徐が、その二階屋上正面に一個、同建物の正面左側に二個合計三個の同原告所有の看板を設置しており、その設置個所並びその一部中央部を東西に貫く巾二間奥行五間の部分を占有し、また原告周は右建物の一階北側の部分五坪三合八勺を、また原告風間は右建物一階西南隅の部分七合についてそれぞれ占有権を有し、さらに本件建物(乙)についてはその全部を原告徐が占有していること、前認定のとおりであり、以上各原告等の占有権を侵害することなく本件建物(甲)、(乙)を収去することが物理的に不可能であることは、現場検証の結果によつて明らかであつて、前記被告の主張は、採用することができない。

(四)  よつて、原告等の前認定の占有権に基き前示建物収去命令に基く本件建物(甲)、(乙)に対する執行処分の排除を求める本訴請求は、他の争点について判断するまでもなく正当として認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 磯崎良誉)

目録

一 建物

(甲) 東京都中央区日本橋通一丁目四番地三

家屋番号同町四番一〇

一、木造トタン葺二階建店舗一棟

建坪一五坪、二階一〇坪

(実測二〇坪七合、二階一二坪)(別紙図面甲の部分)

(乙) 右店舗附属

一、木造トタン葺平家建店舗一棟

建坪一四坪(実測一七坪七合)(別紙図面(乙)の部分)

(丙) 前同所同番地

家屋番号同町四番二四

一、木造トタン葺平家建店舗一棟

建坪一四坪(別紙図面丙の部分)

二 土地

東京都中央区日本橋通一丁目四番地三

一、宅地六九坪五合三勺

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